2ストロークじゃなきゃダメなんだ。


 なぜバイクに乗るのか、そこから考えてみよう。
答えは単純なようで難しい。乗っていて楽しいからなのは確かなのだが、
雨の日にはできれば乗りたくないし、真夏には熱ダレやパーコレーションを起こす。
調子がいいのは乗り手が一番つらい真冬だったり。
あまり良い面が無いようだけど、これは大雑把にオートバイ全般で言えること。

乗って楽なのはクルマ。乗って楽しいのがバイク。
「楽ちん」と「楽しい」を間違えるとビッグスクーターに乗るヤツになってしまうので要注意。
もうひとつ、クルマは運転するもの、バイクは操縦するもの。

 僕の場合は2ストロークに限る。しかも空冷エンジンに偏っている。
2ストエンジンのフィーリングがたまらなく好きだ。
しかし2ストならどれでも良いというわけではない。
ホンダのNSRなどは乗っていてちっとも楽しくない。
スピードという面だけで見ればそれなりに楽しいけど。

4ストは乗っていると(本当に)眠くなるのでぜんぜん乗る気が無い。
たとえどんなに格好良くても、今後は乗らないだろう。
YZF−R1が格好良くても、サイドから延びる水道管のようなマフラーが徹底的にダメ。
2ストのチャンバーのような美しさを絶対に出せないだろうな4ストは。

2ストに乗れなくなったら、バイクを降りるのか?答えはノーだ。
どんな手段を使っ てでも2ストを維持するだろう。
部品を海外から個人輸入したり、それこそまだ2ストの走っている国まで行ってバイ クごと買ってくるかもしれない。

 子供の頃、木登りが大好きだった。
ずいぶん大きな木のてっぺんや先の方まで登って遊んでいた。
細い幹の先は子供の体重でもけっこう「しなる」。
当然ゆらゆらと揺れるし風が吹く となおさらだ。それに怖い。
その細い緊張感が大好きだった。
 幹を跨いで遠くを見る。日常とは違う、視点の高さもいい。
そして風を正面から受 けて揺れる。
この表現って何かに似ていないか。
そう、バイクに乗った時の状態と同じなんだ。
シートに跨り、前を見て、風を受ける。
曲がったり止まったりする時の「しなる」感覚も。

 空冷2ストの太い竹を力いっぱい曲げて放した瞬間のような加速感がいい。
ゆっくり としているけれどもパワーを秘めている感じ。
弓矢を放つ軽さとは違う、何か。

この感覚は2ストロークバイクのみが持てるフィーリングだろう。
大きな木(モーターサイクル)というカテゴリーの中でてっぺん、
枝の伸びたいちば ん先の、弱そうで折れそうな部分。
台風が来たら折れて無くなる。それが2ストローク。

 でも本当に先端の部分に、僕はもう行けない。登れない。
僕は大きくなってしまった。その細い幹は僕の体重を支えきれない。
あの頃には辿り着けない。すべての事象において過去には戻れない。

それから数年が過ぎて、いちばん先の細い枝につかまり、
どきどきしながら風を受け た感覚をRD50SPで取り戻した。
うれしかった。たのしかった。

その感覚が10数年経った今でも続いていると思っていたが、そうでもないことに自分でも驚いた。
もう一度乗りたいと思っているRD50を購入することは簡単だが、いざ乗ってみて、 がっかりするのが怖いのだ。
RD50は僕にとっては木の先っちょだった。
今の僕が乗ったら折れてしまう、いちばん先の細い幹だった。

 現在、数台の2ストバイクが僕の手元にある。それぞれに個性的で楽しいバイクだ。
本当のことを言うと、それらを全部足してもRD50SPに初めて乗った時の感覚、ツーリングした時の気持ちよさにかなわないかも知れない。
でもそれはそれでいい。

常に前を向いて正面からの風を受け、どきどきしながら「しなる」感覚を楽しむ。

2ストロークじゃなきゃダメなんだ。

追記:
その後、僕はRD50SP(不動車/詳細は別ページにて)を手に入れた。
きちんと動くようになったRD50に狂喜するのか落胆するのか?
自分でも、けっこう楽しみだったりする(苦笑)

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